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中央省庁が障がい者雇用を水増し(3460人・42年間) 今の政府・省庁には、障がい者と共に働く経験もノウハウもない

中央省庁が障がい者雇用を水増し(3460人・42年間)

今の政府・省庁には、障がい者と共に働く経験もノウハウもない


「障害者の自立と政治参加をすすめるネットワーク」事務局 古庄 和秀


 国土交通省や総務省などの中央省庁が、義務付けられた障がい者の雇用割合を

42年間にわたり水増しし、定められた目標を大幅に下回る実態を隠していたこと

がわかりました。雇用率に算定できる障がい者とは原則、障がい者手帳を持つ人

と、指定された医師の診断書がある人ですが、実際は、障がいの程度が比較的軽

く手帳を交付されていない職員などを合算するという方法で誤魔化しが行われて

いました。

 中央省庁といえば、障がいの有無にかかわらず誰もが対等に安心して働ける社

会の実現を目指す「旗振り役」です。障がい者雇用のお手本となり、民間企業を

指導する権限と責任を持っています。「共生社会」の実現を理念として、国が率

先して進めたはずの障がい者雇用制度。肝心の中央省庁が目標を下回っていたの

に数字を水増ししていたことになります。同様の水増しは自治体でも発覚するな

ど、問題は拡大していますし、不正が常態化していたことも明らかです。

 こうしたなか、障がい者雇用に取り組む企業や障がい者団体からは、怒りやあ

きれる声が相次いでいますが、「障害者の自立と政治参加をすすめるネットワー

ク」(代表=傳田ひろみ・さいたま市議)のメンバーらが24日、厚生労働省に徹

底調査と障がい者雇用促進などを求める抗議・要請文を提出しました。同ネット

ワーク事務局の古庄和秀さん(大牟田市議会議員)と、DPI日本会議・尾上浩

二さんへの緊急インタビューを行いました。  (文責・編集部)

 

 

 

 

 8月17日、ネットワークとして対応が必要と判断し、抗議行動の検討に入りま

した。幸い、福島瑞穂参議院議員(社民党)と高木錬太郎衆議院議員(立憲民主

党)に賛同を頂き、24日に厚労省に対する要請書とマスコミへの声明を発表して、

㈰徹底調査と、㈪実効性のある対策を求め、29日には、「今の政府・省庁には、

障がい者を雇用し、共に働く経験もノウハウもない」として、雇用環境の整備を

最優先にするよう求めました。

 加藤勝信厚生労働大臣は28日の閣議後の記者会見で、「今年中に法定雇用率に

満たない人数を雇用するよう努力してもらう」と述べましたが、こんな非現実的

な努力目標は即座に撤回すべきです。

 政府は、今回の不祥事の鎮静化を図るために、形式的に障がい者採用に取り組

むでしょう。マスコミも国会も省庁も、数合わせに走って無理矢理でも障がい者

を雇用しようとするだろうし、出先機関にも強く要請するでしょう。

 しかし、障がい当事者議員たちの組織として言わせてもらえば、今の政府・省

庁には、障がい者を雇用し、共に働く経験もノウハウもありません。経験もノウ

ハウもない現状のまま、多数の障がい者を採用したところで、採用された障がい

当事者も職場の仲間も混乱し苦労することは明らかだからです。

 企業などで特別支援学校から直接雇用しても、定着しにくい実態もあります。

就労支援の制度等でマッチングや定着支援を受けたり、職場での理解や合理的配

慮がされないと、働き続けることが難しいのです。障がい者雇用の経験もないの

に、政治圧力で雇っても長続きしないのです。

 雇用を増やそうとする省庁は、お手本となるような合理的配慮をした雇用環境

を作って、働き続けられる職場環境を整備することが、最も重要です。

 具体的には、各省庁内に「障がい者雇用部門」を新設することです。そのうえ

で、所管の事業所(厚労省なら病院・作業所、国交省なら鉄道・バス・ホテルな

ど)との人事交流を進めます。これら民間事業所では、完璧とは言えないまでも

合理的配慮を行ってきた実績とノウハウがあります。こうした事業所から各省庁

は学ぶことができます。こうしたことから準備を始めて、実際に雇い始めるのは、

2〜3年後になるのではないかと思います。

 その数年間については、民間が雇用率未達成のペナルティとしてある納付金=

5万円/月・人を雇用環境整備の費用として予算化すべきだと思います。そうす

れば充実した雇用環境を作りあげることができます。

 「障がい者雇用にはお金がかかる」などと言い放っている大臣や役人がいるよ

うですが、もってのほかです。こうした手順をしっかり踏んで準備を進め、障が

い者雇用を全省庁を挙げて推進してほしいと思っています。

 


徹底した調査結果の検証と実効性ある再発防止策を!

DPI日本会議 副議長 尾上浩二


 「水増しされた職員数は3000人を超える」とも報じられています。これだ

け大規模な障がい者の雇用機会が40年以上に渡って失われたわけです。この事実

自体が、障がい者の権利を大きく損ねる行為として厳しく糺されなければなりま

せん。未だに省庁担当者は「マニュアルの理解不足だった」などと言い訳をして

いますが、40年にわたって障がい者の雇用権利を大きく損ねてきたという反省の

声が、全く聞こえてこないことが、事態の深刻さを物語っています。

 厚労省は、民間部門に対して障がい者手帳のコピーを求め、人数が足らなけれ

ば納付金という「罰金」を科してきたわけです。一方中央省庁は、民間部門に対

して、お手本となって障がい者雇用を進める責務を担うべき役割があるにもかか

わらず、甘いチェックが横行し、障がい者の雇用機会を奪っておきながら、何ら

のペナルティも課されないということです。法定雇用率未達成の民間部門に課せ

られている納付金制度を考慮すると、官優遇との誹りを免れない行為です。


当事者交えた「第三者委員会」設置を

 なぜこんなことが起きたのか? 誰が主導したのか? について検証し、再発

防止策が講じられなければなりませんが、役所の身内だけでやっていたのでは、

実のある再発防止策にならないことは、くりかえされる不祥事を見ても明らかで

す。

 客観的な検証と実のある再発防止策を検討するためには、障がい当事者と弁護

士を含む第三者委員会を設置することが重要です。「私たち抜きに私たちのこと

を決めるな」という当事者主義の原則は、日本政府も同意し、進めてきたもので

す。




 しかし、今回の失態にこりて必要以上に法令遵守に固執し、雇用対象者を厳格

に手帳保持者に限定する対応には大きな問題があります。なぜなら現行の法定雇

用率の対象者は、昔ながらの医学モデルにしたがっているからです。医学モデル

に基づく障がい者手帳の所持を至上とせず、障がい者権利条約に基づいた社会モ

デルの観点から見直すべきです。

 医学モデルでは、身体障がい者手帳でいえば、四肢の欠損や視聴覚障がいなど

生活動作を基準にしています。しかし、例えば難病患者は、日常生活は普通に送

れているように見えても、疲れやすかったり、気温による変調などといった波の

ある症状が出る人もいます。症状に波があったり断続がある場合、医学モデルで

は、手帳交付の対象にはなっていません。

 長時間労働や体調に合わせて休みが取りにくいという日本の労働慣行のなかで

は、難病患者で例えば定期的に入院治療が必要になる方の場合は、仕事を継続し

づらくなります。いったん失業すると、再就職はさらに困難です。症状は断続的

でも、社会生活上の制限・不利益は継続しているのです。社会的な雇用環境や制

度が整っていない結果として雇用されにくい人たちも、障がい者雇用の対象にす

べきでしょう。

 社会モデルに転換すれば、対象者は増えます。例えばドイツやフランスでは、

法定雇用率は5〜6%に設定されていますが、日本は、その半分以下です。社会

モデルを採用し、こうした国々の例に倣って雇用拡大を進めるべきです。

 「現行制度を守れ」ということだけだと、「障がい者雇用は手帳所持者に限り

なさい」という論調になりがちです。しかし、その先に私たちが求める社会があ

るわけではありません。今後の制度を考えると、障がい者権利条約に対応した制

度のあり方を当事者とともに模索すべきです。


 雇用の分野における障がい者の均等な機会・待遇を確保するための法律。企業

や国、地方自治体に一定割合以上の障がい者を雇用するよう義務付けている。達

成できない企業は納付金を課せられ、企業名を公表されることもある。

 法定雇用率は今年4月1日から引き上げられ、国と自治体は2.5%、企業は2.2

%となった。企業よりも国や自治体の率が高いのは、公的機関が模範を示すため

とされる。

 昨年6月1日時点で、国の行政機関の平均雇用率は水増しで2.49%と、当時の

法定雇用率(2.3%)を上回る発表だった。

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