共生社会が遠のいていく‟障害者雇用水増し事件”
障害者の自立と政治参加をすすめるネットワーク代表
さいたま市議会議員 伝田ひろみ
ヒアリングを聞いて
「障害者雇用省庁水増し」~義務化当初から42年~ 衝撃的な見出しで始まった報道をきっかけに、この水増し事件は中央から地方自治体へと広がっていきました。怒りを通り越してあきれるばかりです。報道があった8月17日、私が代表をつとめる「障害者の自立と政治参加をすすめるネットワーク」として対応が必要と判断し、事務局で抗議行動の検討に入りました。何人かの国会議員を通し、野党合同ヒアリングの場にも参加できるよう準備をし、ヒアリング当日8月24日に厚労省に対する要請書とマスコミに対する声明を発表し、①徹底調査と➁実効性のある対策を求めました。省庁の役人と国会議員とのやり取りを目の前で見聞きするのは初めてでしたが、とにかく役人たちは障害者のことを実は何も解ってはいないのではないかというのが第一印象でした。確かにこれでは障害者が社会の一員として当たり前に生きていく施策にはつながらないだろうと思います。
厚労大臣は対応策として「今年中に法定雇用率に満たない人数を雇用するよう努力してもらう」と記者会見で発表したらしいですが、とんでもありません。3500人余りの障害者をしかも今年中に雇用するなどという非現実的な展開はあり得ません。今の政府・省庁には障害者を雇用し、共に働く土壌も経験もありません。経験もノウハウもない現状のまま、多数の障害者を採用したところで、障害当事者も職場の仲間も混乱し苦労することは明らかです。単なる数合わせをしないでほしい。これが今現在の切実な思いです。
水増し事件はなぜ起こったのか
では、なぜこのような水増し事件が起こってしまったのでしょうか。厚労省が定めたガイドラインの読み違えというような釈明はヒアリングの際にも聞きました。確かに「原則として手帳の提示」という文言の「原則として」を自分たちが都合良く解釈してしまったのでしょう。ガイドラインを作った厚労省も、「原則として」とあるのを幸いに都合よく解釈してしまった他の省庁も、障害者はよくわからない、いっしょに仕事をするイメージすら思い浮かばないといった意識が根底にはあるのでしょう。権利条約を批准し、差別解消法が制定され、同じような条例も地方自治体で次々と誕生し、政府が音頭を取って「共生社会の実現」が謳われているまさにこの時期にこのような大事件が起こってしまったことは全く残念でなりません。
事件を契機として
この現実をしっかりと受け止め、さて、これからです。政府は第三者委員会を立ち上げたようですが、障害当事者は入っていません。ヒアリングの場でも多くの障害者団体が当事者参画を求めたのにその声は反映されませんでした。地方自治体では当たり前の「障害者枠」を新たに設けることはあるかもしれません。しかし、その枠内に入るのはほとんどが身体障害者のみであり、自力通勤、介助者なしという条件を付けている自治体がほとんどです。国は先ずすべての障害者を対象にし、通勤や介助の問題をどうするか民間や先進自治体の意見を参考にしながら即刻検討すべきです。経済活動を伴うことには福祉の制度は使えないなどという仕組みの矛盾にすぐに突き当たるはずです。そして障害者を知らないということはどういうことなのか。小さいころからいっしょに学び遊ぶ環境がないことにそもそもその原因があることを文科省は気付くべきです。
この大事件を契機として中央も地方も障害者雇用のあるべき姿を真摯に追及していっていただきたいと思います。そのあるべき姿が実現した時にこそ民間にペナルティを求めることもできるのではないでしょうか。
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